学校内カーストへの恐怖心がよみがえる

桐島、部活やめるってよ』を観た。早稲田松竹。人物描写だけではなく、人物たちをとりまく雰囲気の描写まで、細かなディティールで語らずとも語っている、非常に見応えのある作品。ちょうおもしろかったです。

桐島という学校内のヒーローを失ってしまった後、取り残された学内カースト上位層である生徒たちの困惑、迷走、狂気。またその影響は、ヒーローとはそもそも接点のなかった学内カースト下位層にまで影響していく…。というような物語なのですが、この作品でまずすごいなと思ったのが、その「上位層」「下位層」については制服の着こなしや言葉遣い、声量、動きの大きさなどで説明なしでもかんぜんに区別できるつくりなんである。そうそうそう、上位層ってなんか声が大きくて「教室は俺たちのもの」って顔してるよねー。放課後、自分の部屋みたいにくつろいでたりするよねー。ファック。などと、教室隅っこ族時代の感情が呼び起こされた。

僕の高校時代。部活には参加せず、クラスに話の合う友人もいなかった僕の居場所は、昼休みの放送室だったのです。他クラスの友人たちと集まって毎日お昼の放送を流す。月曜日はスガシカオ、火曜日はスライ&ザ・ファミリー・ストーン、水曜木曜はスガシカオで、金曜日はなんとスガシカオ。いま思い返してもモラルがかんぜんに崩壊しているなという放送内容である。そんなある日、そう確かその日はめずらしくスガシカオ以外の音楽(メジャーデビュー前のエゴラッピン)を放送していたところ、放送室のドアが勢いよく開き「この曲いいね!なんてバンド?誰が流してんの!?」という声が。入ってきたのは、軽音楽部に所属していて一眼レフカメラに凝っているという同学年でも有名なオシャレ女子だった。その子は、登場時の勢いこそよかったものの、僕らを見るなり深刻な困惑顔を浮かべている。僕が「これね。大阪のバンドで、エゴラッピンていう人たち」と説明すると「ああ、そうなんだ。へー…ありがとう…」ドアがパタン。そのあとの空気ですよ。あの感じは一生忘れられませんよね。

いまでこそ友人たちとのあいだで笑い話になっているそのような出来事を経たからこそ『桐島、部活やめるってよ』で描かれる学内カーストのディティールの細かさ、そこにぐぐっとハートを掴まれました。学校物っぽく甘酸っぱいことになってる生徒もいるし、くだらねー馬鹿もいるし、駄目をこじらせててその駄目さがむしろ面白いよおまえって奴もいるし、よかったシーンやよかった演技を挙げたらキリがない程。感心したり笑ったりしながらたのしく鑑賞できた良い映画。早稲田松竹さんのセレクトさすがです。