スピーカーマウンテン在住の祖父と叔父

先日の奈良〜神戸旅行では、1泊だけ祖父の家に泊まったんだけれど、その祖父宅のドアを開けて呆気にとられた。部屋中にスピーカーやCDデッキが積み上げられて山のよう。キッチン、風呂、ベッド、ソファとローテーブル、それらをつなぐ生活動線以外はすべてONKYODENONKENWOODの山、山、山…。スピーカーマウンテンの間で無人島のように生き残ったソファに祖父は座り、僕らをニコニコ顔で出迎えてくれた。え、なんだろうこれ。7年前にこの家にきたときは、こんな惨状にはなってなかったけれど…いったい誰が…。祖父と同居している叔父が「散らかってて悪いね。ハマってんだよ。スピーカーとかに」おまえか。

叔父は僕とおなじ片眼みえない族の者なんだけれど、いぜん勤めてた役所でパソコン使用中、見える方の眼が網膜剥離を発症してしまった。ぎりぎり視力を失わずに済んだとはいえ、長時間パソコンを使うことができなくなって止む無く早期退職。まだ50代半ばだけどその時もらった退職金を糧に暮らす仙人。その彼が暇を持て余した結果、ネットオークションの転売にたのしみを見出し、家中にスピーカーが積み上げられるということに。

叔父は、高く高く積み上げられたそれら機械や段ボールについて、ひとつひとつうれしそうにたのしそうに紹介してまわる。「これは100円で競り落としたからー…あのデッキと組み合わせて3、000円くらいで売れたらいいなーとか思うんだよねー」正直ビタイチ興味をもてない話題だったけれど、1泊させていただく恩義もあって聞かざるを得ず、お嫁さんとふたり天井まで積み上げられた段ボールを見上げながらぽっかーーーん。

耳がほとんど聴こえず若干ボケが始まったかもしれない祖父(唯一の娯楽は戸棚の開閉らしく、お気に入りの戸棚は壊れかけたので開閉禁止になった)(べつに戸棚からなにかを取り出す訳ではないらしい)とのふたり暮らしは、途方もなく退屈だろうし、あの家は叔父さんが建てた家だから祖父も文句を言わない、仕方ないんだろう。とはいえ、足の弱った老人と住む家でここまで動線を限定するのもどうかと思うんだよね。「1年かけてここまで増えちゃったけど、さすがに自分でもどうかと思ってるから、これから数年かけてぜんぶ売っ払うよ。次来るときは綺麗な家にしておくから。おっ、また100円で入札しといたスピーカーが競り落とせた。弱ったなーー」このひとちょうたのしそうだから、もう、ああ。